いまだ 花冷えにて

        *YUN様砂幻様のところで連載されておいでの
         789女子高生設定をお借りしました。
 

 冬場の乱高下をそのまま持ち越したらしく、寒暖の差がはなはだしいこの春は。早く咲いた桜に無情の雪が降り積もる地域も出たほどの、とんだ目まぐるしさをいつまでも続ける意地の悪さで、花の四月を終えようとしており。

 「ここいらは もうすっかり葉桜だね。」

 街なかの小さな緑地公園の周縁、街路に沿ってる側に並んだ木立が、結構見ごたえのあるソメイヨシノだったのだが。さすがに四月も末となっては、桜花の影もすっかりとなくて。とはいえ、その若葉自体は、まだ赤ちゃんもいいところの小ささなので。梢を覆うまでには全く間に合っておらず。降りそそぐ陽を遮るにも足りぬまま、樹下をゆく人々をまんま明るく照らしている。カラーレンガの舗道は、緑地前にて少しばかり広く幅を取っているため、ちょっとした広場も兼ねており。そんな舗道の端、あちこちに立ち止まり、待ち合わせの相手を待つ人影も少なくはない。携帯の液晶画面を見やり、メールを見たり打ったり、小さなプレイヤーで音楽を聴いてたり、文庫本を開いていたりと、待ちようは人それぞれで。相棒のいる待ちぼうけ組なら、時間つぶしを兼ねたお喋りに精出すところ。そんな中にあって、

 「青森の弘前城じゃあサ、
  そりゃあ見事な桜をたっくさんの人が観に来る、
  毎年恒例のさくらのお祭りが始まったのに。」

 肝心の桜がまだ蕾も堅いらしくって、ゴールデンウィークに間に合うんだろかって、地元の人たちがやきもきしてるんだって…と。事情通なのは悪いことではないけれど、この手の話題を持ち出した人物が、見るからに十代のお嬢さんだってのは、何とも微妙だったりし。しかもしかも、そういう話題を好みそうなお堅い大人が、学生はこうでなくてはと頷きもって得心しそうな、所謂“スタンダード”ないで立ちならばともかくも。プリント柄のブラウスは腰下まで丈があり、胸元切り替えでフレアたっぷりというフォークロア調。更紗っぽい薄手の生地のブラウスだけじゃあ 当然まだまだ寒かろからと、上へ重ね着ているのは結構しっかりしたジャケットで。だっていうのに、真白き御々脚の…膝下は言うに及ばず、腿の部分も軽く70%は露出してんじゃなかろかという、相変わらずのミニスカート姿が、何ともコケティッシュでありながら。その足元はといえば、足首にくしゅくしゅとやわらかい生地がまとわりつくタイプの、ハーフブーツという取り合わせ。寒そうだが春っぽさを主張したいんだか。でもやっぱり寒いんだもんと、足元だけは花より実をとったのだか。どっちつかずではっきりしない混在振りだが、季節感薄れゆく昨今じゃあ、さほど突飛な組み合わせでもないのかも。

 “真夏に鍋焼きうどんよりかはマシだが。”

 夏炉冬扇って言葉を知らんのか、あんたらは。…などという、書き手の独り言へと付き合ったお連れさんの方は方で、襟の立ったジャケットは、オイルコーティングの利いた、いかにもマニッシュな型の代物。ウエストカットという短さの上着の下から覗くは、こちらさんも随分と丈の短いスカートだったが、スムースジャージを思わすその生地が張りつく下肢は、スキニータイプのスリムなジーンズに包まれており。こちらさんも相当に長いその御々脚、均整も取れていて十分キュートじゃああるけれど、それ以上に切れのいい快活さの方がシャープに強調されている。一緒にいるのが今時の“何ちゃってフェミニン風”なため、尚のこと、ボーイッシュな雰囲気が際立っており。

 「…と、ほらあれ。」
 「あの子たち?」
 「…で、〜〜なんでしょ?」
 「どっかの読者モデルとか?」

 それでなくとも、双方ともが 陽を受けて燦然と燿く金の髪をしているその上。いづれが春蘭秋菊か、すべらかな白い肌に凛と端正な面差しをし。日本人離れした淡色の瞳もお揃いならば、きゅっと引き締まった肢体に腕脚の長い、かなりなレベルで美人の部類に入る少女たちなせいもあり。行き交う人々は、男女を問わず、ついのこととて視線を寄越しちゃあ、どういう素性の子たちだろうか、一体どういう間柄なんだろと、詮索の気配ぷんぷんな関心を寄せて止まなかったりし。生まれてこの方のずっとを、そういう好奇心にさらされ続けだった身には、そんなものは今更なこと。小さい頃は小さい頃で、いくら何でも小学生が髪を染めてるって事はなかろうからと、どこの国から来たハーフかクォーターかとまで言われていたもので。高校生になった今、その辺りへの詮索はさすがに和らいだけれど、そうなると今度は、ケバいの軽いのという方向への誤解も受けかねず。

 『ウチのガッコの制服姿でうろうろしてると、
  あの頭であんなお堅い学園の子なの?って顔されますものねvv』

 やはり赤い髪なのでと、似たような誤解の中を育ったもう一人の親友が、苦笑交じりにそうと言ってたのを思い出す。だがまあ、いちいち意識していちゃあキリがないし、一人で街に出ての誰かと待ち合わせなんて場合だと、案外と自覚してなかったなぁと、今の今 ふと気がついたほど。だって連れの方が目立っているよな気がするからつい、不快じゃなかろか、こっち向いてりゃ大丈夫だよなんて、そんな気遣いばかりしてしまい。そうすることで、ああ自分もご同類なんだっけと、後づけで気がついているお呑気さは、いっそ“豪気な”と呼んでもいいのかも。

 『おや久蔵、お出掛けですか?』

 高校でやっと出会えたくらいだ、お互いが住まう町は結構な距離を挟んでいる間柄だったが。使う交通機関は同じ沿線だったので、約束がない日でも、こうして偶然同じ列車に乗り合わせることは珍しくはなくて。

 『…?』
 『アタシはちょっとその…。///////』

 何へ対しても堂々としているのが常な七郎次だったが、彼女なりの気張った装いをしていて、しかも久蔵からの目顔でという問いかけへ、そうと察したその途端、たちまち しどろもどろになったのが、何とも判りやすいったら。

 こんな昼間にも逢うのかって?
 うん。…でも時々だけどもね。
 ほら勘兵衛様って、夜中に張り込みだの何だのが多いじゃない。
 だから、昼日中の方が体は空いてるらしいんだけど。
 そんな時間にも手掛けることは山ほどあるらしいし、
 無けりゃ無いで、仮眠とかしてるみたいだし。

 警視庁の捜査一課の、えとうと、何の担当だったかなぁ? 部下や仲間を信頼してないワケじゃあないが、事務方仕事はともかく、訊き込みや犯人検挙となると、証拠や証言を積み上げた事実の末の推測だけじゃ足らず、長年の経験で培った感覚が勝負という場面が多々あるものだから。ついつい、自分の耳目も同座させていた方が、いいんじゃないかと感じてしまう、壮年警部補殿であるらしく。

 『昼間にメールしても、うんともすんとも返って来ない日が多いったら』

 さも可笑しいことのように目許たわめて語る七郎次なのが、なのに聞いてるこちらは居たたまれない。相変わらずに我慢強いその人性が、あんな男には勿体ないと思いもするが、当の七郎次がぞっこんなのだから、こうなるともう、応援に回ってやるしかないじゃあないか。ちょうど久蔵も同じ街角までお買い物にと出掛けるところ。だったら相手が来る頃合いまでの、相手欲しやなその間、暇つぶしにお付き合いしようじゃあないかと、駅から此処までついて来たのであり。久し振りのいいお日和な日曜とあって、人出も多くて 人目も多い。それでも何とか、道端の手頃なスペースに立ち位置を見つけ、他愛ないことを話していた二人だったのだが、

 「……。」
 「あ、ちょっと待ってくださいな。」

 じっとしていると降り落ちる陽がじりじりと熱いほどなのでだろう、連れの久蔵が白い手を上げ、ふわりとした前髪の下、額を甲で拭おうとしかかったので。待て待てと押しとどめ、ポケットに入れていたハンカチ取り出し、そのまま ほれと拭ってやったた七郎次だったが、

 「あれ? キュウゾウ、あんた鼻の頭は冷たいね。」
 「……。(頷)」

 耳たぶも、あれあれ指先もだと。うっすら滲んでいた汗をちょいちょいと拭いてやってから、ハンカチは仕舞ったものの、再びその手を伸ばして来た七郎次。お行儀のいい指先揃え、さして変わらぬ高さのお顔と向かい合うと、形のいいお耳を掬うようにして、左右ともに手のひらで覆う。手触りのいいやわらかな肌は、だが、

 「うあ、ひんやりしてる。汗かいてたほど暑いのにねぇ。」

 そういや此処に来るまでの、駅の中やファッションマートの中もちょっと寒かったもんね。だってのに、外はこの陽射しじゃない、着るものに困るったらありゃしない…と。だからそんな混乱した格好なのかと、知らない人には 今頃に納得誘いそうな言いようをする七郎次であり。とはいうものの、

 「……。」

 ほっそりしていて手入れも行き届いている、そんな七郎次の指先の感触の心地よさへ。うっとりしてだか目許を細めた久蔵なのだと気がつくと、

 「こうしていると温かい?」

 世話好きの面目躍如…は大仰だったが、幼い仕草で こくりと頷く美少女の、表情の薄さの中、ぽちりと灯った希少な喜色を見つけた途端、あらあらあら/////// と、たちまち その胸キュンと疼かせてしまう世話女房殿。青い双眸の縁を赤らめつつも、

 “まったくもうもう、相変わらずなんだからvv”

 そういや昔っからそうだった。何が?じゃありませんよ、久蔵は“昔”もそりゃあ冷たい指先していて。こんなんじゃあ、いざって時に動かないんじゃないか、そっちの立ち上げへは不備がなくとも、それじゃあじゃあ、ちょっとした拍子に怪我でもしないかって。

 「剣ダコもない綺麗な手だったから尚のこと、
  どっかに引っかけたり、棘を刺したり しやせぬかって。」

 そんな話になったからか、お耳はもういいとして、ふわりと退いた手が降りてゆき。ジャケットの袖、輪郭を撫でるようにすべり降りたその先にあった、やはり色白な手へと自分の手を重ねる七郎次であり。今の生ではバレエへ打ち込む芸術家の手は、やはりしっとりときめ細かなまま、それはひんやりと冷たい感触がし。そのまませっせっせでもしようかという形での握り合いになった手を、向かい合ってたまま、胸元の辺りへまでそおと持ち上げれば。軽い支えようだったのでだろう、あっさりと離されてしまい。だが、逃げたんじゃあなくの、むしろこっちへ向かって来た久蔵の手は、七郎次の肩先を越え、うなじ目がけて背後へとすべり込み。

 「……あ。」

 一緒にずいと迫って来た色白なお顔は、七郎次の右の肩の上へと落ち着いて。その頬をちょこりと乗っけて来たのが、ああ“昔”もよくこんなして甘えて来たなぁというのを彷彿とさせる。あの“当時”の彼らはといや、途中参加はお互い様だったが、立場は丸きりの正反対。数年間に渡る別離というブランクを置きつつも、その呼吸はきっちりと覚えていた、惣領殿の元右腕だった七郎次と。野伏せり相手の戦さを前にし、何とその野伏せり陣営から寝返って来たようなもの。勘兵衛と真剣本気で切り結んだという経緯持つ、練達には違いないが、危険極まりない存在でもあると警戒されてもいた久蔵と。他のお仲間との合流期間には大差も無いが、背負うものが真逆なほど掛け離れており。これは合わせるのは難儀かもと案じたものの、それを何とかするのも副官の務めだったの思い出し。手なずけるなんてなつもりはなかったが、せめて馴染んでほしくて構ったところが…これが案外 他愛なく懐いてくれて。その結果の、あの甘えっぷりだったと、そこをまで思い出してしまった七郎次としては、

 「…キュウゾウ、いきなりビックリさせないでくださいよ。」

 そんなに強く抱きつかれた訳じゃあない。彼…もとえ、彼女自身も痩躯で軽い身だったし、ふわっと合わさった胸元同士は、筋骨の質感よりも むしろ、互いのまとう衣類の厚さがくすぐったい柔らかさだったので。そのブラウス、随分とやあらかいんですねぇなんて囁いて、心地よさへとついつい微笑い合ったほど。どっちかといえば、キュウゾウの側からくるみこむように抱きしめたと言ったほうがそぐう、何とも可愛らしいじゃれ掛かりになったお二人で。そんな中、

 「…女同士でよかった。」

 久蔵がぽつりと意外な言いようをしたものだから、七郎次は逆にやや呆れてしまい、何を言ってますかとの苦笑を洩らす。まあ確かに、十代の少女がきゅうとしがみつき合ってる姿なぞ、微妙にまだ寒いことと相俟って、可愛らしいレベルのふざけ合いにしか見えないだろう構図だが、

 「あの“昔”だって、
  キュウゾウったらこんな風に抱きついて来なかったですか?」

 誰からどう見られているかなぞ、ちっとも厭うお人じゃあなかったクセに。何を今更、常識人のような分別臭い言いようをして…なんて。意外なことを言うものだと感じたものの、だが、責めてる訳じゃあなく。七郎次の側からも額をグリグリと押しつけるほどに、お顔同士をくっつければ。先に抱きついて来た久蔵が、だのに意外そうに目を見張る。だが、赤い瞳に青い双眸からの…微笑を滲ませた眼差しが絡まれば。それだけであっさりと絆されてしまい、ますますのこと、ぎゅっと抱きついてしまう少女たちだったけれど、

  「…いい加減、そこまででもう止さんか。」
  「あれ、勘兵衛様。」

 微妙に低められたお声が突然割り込んできて、甘い雰囲気を力づくで塗りつぶす。何をどう見とがめたものか、元はといえばの前世を重ねたところで、そっちはそっちで母と子のような間柄を思わす、やはり他愛のない甘えっぷりだったのにね。可憐な風体の少女たちがキャッキャとじゃれ合っていたものを、それこそ無粋にも片やの肩口に手を置いて引き分けたのが、いかにも男臭い風貌したスーツ姿の壮年男性だったものだから。無体な乱暴狼藉にしか見えなんだそれへこそ、ややや もしかして補導員かとでも思われたか、周囲の空気がざわっと波立ったほどの反応でもあり。勿論のこと、当の七郎次からさえ、

 「何ですよ、ちょっとじゃれ合ってただけじゃないですか。」
 「〜〜〜〜〜〜。」

 非難めいた言われようをし、そのくらいは言われずとも判っていると、今となっては言い返すのさえ情けない。が、微妙に遅れた待ち合わせのその場所へとやっと到着した勘兵衛にしてみれば。先に来ていたらしい相手が眸に入リ、ああ今日も愛らしいなと気持ちがほこり浮き立ちかかったのとほぼ同時、まるで計ったようなタイミングでそんな彼女へと抱きついた誰かさんだったのであり。しかもしかも、七郎次には背中側になろうこちらへと向いてたそのお顔は、間違いなくこっちをしっかと見やっていたのだもの。どう考えても、まだ声や手は届かぬところにいた勘兵衛へと見せつけるよに、七郎次の身をぎゅうと抱きしめていた彼…もとえ、彼女だったと捕らえてもしょうがなかろうというもので。密着していたのを剥がされた程度、大きく引きはがされた訳じゃあなし、まだ手と手は久蔵と繋いだままな七郎次が、

 「勘兵衛様?」

 そんな怖いお顔になっていかがしましたか?と。そういう含みを持たせた聞き方をしたのへ、やっとのことハッと我に返れた、警視庁がこそりと誇る敏腕警部補殿。今になって“大人げないことをした”と気づいてだろう、ますますとその口許を何とも言い難い角度へ歪めたものの、

 「キュウゾウ。」

 そんな彼が来たのとは反対側から、別な誰かさんの声がして。足元のテラコッタ風レンガを鳴らすように、ぱたぱたっと軽快に駆けて来たのが、

 「え? ヘイさん?」
 「そうですよ? キュウゾウとこれから買い物へ。」

 今度はそっちの彼女の方から、スレンダーなプリマドンナの腕を取るのへ。あ、ひどいんだ。アタシは仲間外れですかい?と、自分には知らされてなかったところの、仲良しさんたちの今日のおデートを七郎次が眉をしかめて非難すれば、

 「何言ってますか、これからデートなお人が。」

 私たちへも自慢げに誇らしげに、しかも嬉しそうに語ったお人が、そんな意味不明なことを言っちゃあいけない。あ・それとも、そっちを二の次に出来たんですか? んん?と。なかなかの威勢でもって、それこそ逆ねじ食らわせた平八だったので、

 「あ、いや、そういうワケでは………。」

 平八はにっこしと冷やかすように笑っているばかりで、七郎次を叱ってる訳じゃあなかったし。むしろ、勘兵衛に“二の次に出来ること”と聞かせた格好になってはないかと、遅ればせながらに気がついて。あわわと年上の恋人のほうを向いたれば、

 「……勘兵衛様、キュウゾウと睨み合ってどうかしましたか?」
 「…いや なに。」

 今の生では可憐な少女。だってのに、かつての約定を覚えていてのそれか、正に“斬りつけるような”眼差しを勘兵衛へと向けて来もする獰猛さ…いやさ、意気軒高なところに変わりはなく。しかもしかも、そういやそういう相性だったのまで思い出したか、何かというと七郎次へ甘える態度がまた、随分と頻繁 且つ濃厚なのが勘兵衛の眸につくところで繰り広げられるものだから。そんな下心があってのことだろかという憶測へとむっと来たか、それともそんな考えようをたかだか高校生の女の子相手に構える大人げない自分だと、今になって気がついてのことか。

 「ほれ、行くぞ。」
 「あ、はい。キュウゾウ、ヘイさん、明日 学校でネ?」
 「ええ、また明日。」
 「……。(頷)」

 慌ただしい挨拶させるのさえムッと来るほどの、それこそ大人気ない憤懣抱え、のしのしと立ち去る勘兵衛は、気づいていないか七郎次の手首を自分の大きな手でぎゅうと掴んだままであり。あれじゃあ、少年課の古顔の刑事さんに補導された女子高生みたいじゃないですかと、苦笑しつつも語りかけて来た平八だったのへ、

 「………。」
 「あ、キュウゾウってば、私じゃあ相手不足とでも言いたげですね。」

 眼中にないかのごとく、立ち去った二人の方ばかり見遣っていたのを指摘され、違う違うと慌ててかぶりを振るところは、かつての剣豪なら到底見られはしなかっただろうなと。そう思うことで何とか優越感らしきものを沸き立たせ、その胸 温めた猫目の少女。タータンチェックが襟元や短めのリボンタイに使われている、セーラー服タイプのシャツに。同じ柄の箱ひだスカートという、何ちゃって制服もどきないで立ちの上へ。きっとの間違いなく、許婚者の五郎兵衛のを拝借して来たのだろ、スカート丈より長いスプリングコートを羽織っている、こちらさんも何だかよく判らない、判じものめいた恰好のまま、

 「さあさ、キュウゾウ殿も勘兵衛さんへの岡焼きどころじゃなかったはずですよ。」
 「???」
 「やですねぇ。ヒョーゴ先生、そろそろお誕生日じゃなかったですか?」
 「…っ!///////」

 変わり文房具なんてな色気のないものばっか贈ってちゃあ、芸がないとかどうとか。キュウゾウ殿、そんな風に言ってたじゃあないですか…と。会話の舵を見事に取って、さぁさ、ファッションモールの方へ行きましょねと、促す手際も手慣れたもの。何たって三人娘の中じゃあ、一番長くて、しかも今だ継続中という確かな恋愛経験を持つ平八で。しかもしかも、その恋人というのが、自分たちへも気心の知れている存在なので。何となれば、好いたらしく思う相手へのカマかけなんぞ、ひょいと手伝ってもくれたりし。初心者で不器用な久蔵には、これほど頼りになる相談相手もいないというもの。七郎次の難儀な恋の行く末も心配じゃああるけれど。そしてそして、そのお相手があの甲斐性なしの島田勘兵衛なのが、いまだに理解不能だったりもするのだけれど。

 “…タデ食う虫も好き好きと言うし。”

 お、言いますね。
(笑) 不快なお顔させただけでも一矢報いたことになろうから、今日のところはそれで満足としようと。とっとと立ち去っていった二人のことは意識の外へと追い出した。電車の中で偶然装って七郎次に声をかけるところから…というのなら、こんな策をこの久蔵が捻り出せるかというと、ちと無理があると思ったあなたは おさすがの洞察。実は此処までのあれこれ、後から現れた平八が吹き込んだ策略だったりする。

 “だって、
  キュウゾウ殿ばかりが我慢を強いられるのって、
  何か不公平じゃないですか。”

 今やお互いの想いも通じ合いての幸せいっぱい、どんな苦難も愛があれば乗り越えられると思ってる、勘兵衛様こそが我が命…としている当事者の七郎次はともかくとして。昔の奇矯だった“彼”からして七郎次にだけは心開いていた節の強い久蔵が、勘兵衛という難物にそれでも尽くす七郎次が結構大変な立場なの、だがだがただ見ているだけというのは辛かろと。それでなくとも、勘兵衛との太刀を交えての対峙という望み、今の世では叶いそうにない身だ…ということも併せて慮れば。その仇敵・島田勘兵衛を相手に、少しくらい溜飲下げることを考えてやったって罰は当たるまい。そしてそして、こんな可憐な女子高生を二人も悩ませている、コトの当事者二人はといやぁ、


 「何でそんな不機嫌なのですか? 勘兵衛様。」
 「お主へという代物ではないさ。すまぬな、大人げないことで。」
 「私といるのに他へと気が向いておいでなのですか?」
 「そうは言うが、先程の久蔵の態度は。」
 「はい?」


 昼食をと約束していた手前、入ったのが小じゃれたイタリアンの店で。目に付いたからというような行き当たりばったりかと思えばそうじゃない、勘兵衛の馴染みのシェフがオーナー務める、通には有名でありながら、宣伝を一切打たぬため“穴場”でもあるという不思議なお店で。いやそれは料理が運ばれてから明らかになったこと。

 「キュウゾウが…って。ただじゃれ合ってただけですよぉ。////////」

 勘兵衛が何でまた、それへ不機嫌になるのかが七郎次にはますます判らない。今の生は二人とも多感な年頃の女の子であり、しかもしかも、記憶が戻ったのは七郎次が一番遅いが、久蔵もさして変わらぬ時期だったというから、つい最近の話であり。

 「あのキュウゾウが、
  何かしら意図しての嘘とか企みなんてもの、
  巡らすはずがないでしょうが。
  それに…キュウゾウにはヒョーゴ先生がおります。」

 何をどう勘違いなさっているかは存じませぬが、あんなかあいらしい子へ、根拠もないまま疑惑の眸を向けるのは辞めたげてくださいと。自分の倍は年上だろう壮年へ、きっぱり言い切る女子高生。ご注文はとメニューをたずさえてやって来たシェフ殿が、警視庁では知らぬもののない辣腕振るい、捜査の巧みさとそれから、容疑者への取調べでも“落としの勘兵衛”と謳われた鬼警部補をやり込める少女にはたまげていたらしいという、あんまり褒められはしない進展ぶりだったそうで。


  ………ホントにいいのか? シチさん。
      そんなお人についてって。
(苦笑)




  〜Fine〜  10.04.25.


  *あああ、最後のほうは睡魔と戦いつつ書きました。
   すいません、
   後で見直し書き直しも有りというお話、お目にかけちゃって。
   本家様ではともかく、ウチはシチさん好き好きな久蔵殿なので、
   なのに微妙にかわいそうな今生なんじゃなかろかと思ったもんで、
   恵まれすぎな勘兵衛様への軽い意趣返しを、
   ヘイさんと一緒に構えてみましたvv

めーるふぉーむvv ご感想はこちらvv

メルフォへのレスもこちらにvv


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